平成から今日まで

 バブル崩壊

平成2年1月から株価は下がり始め、2月に円相場は1ドル=149円に急落、円・株・債権のトリプル安が問題になった。3月には公定歩合が1%引き上げられ、5.25%となった。株価はピークから28%下落したものの、景気はなお上昇し続けた。再び日銀が公定歩合を6.0%に引き上げた8月以降、株価は下がり続け10月には対前年末比49%の大暴落となった。この暴落でバブルは崩壊、国民総資産のうち株式資産は890兆円から594兆円へ「33.3%」減少した。
株価下落で含み益が消え担保力は低下、これによって株価上昇を前提に盛んだった転換社債・ワラント債などのエクイティ・ファイナンスも事実上停止した。株式投資失敗や土地・不動産価格の下落による企業倒産が続き、銀行は大量の不良債権を抱え込むこととなった。また大手証券会社の大口顧客への損失補填問題や暴力団への資金提供、株価操作、大手都市銀行の不正融資事件、架空預金口座事件が発覚し各社の社長・会長辞任劇が相次いだ。さらに自民党金丸副総裁の巨額不正蓄財と脱税が問題となって政治改革が争点となった。平成3年に発足した宮沢内閣は小選挙区制案の成立を図るも自民党内の亀裂が表面化して失敗、平成5年7月に自民党から新生党と新党さきがけが分裂した。その後内閣不信任案が可決され解散後の総選挙で自民党は過半数を失い、日本新党・新党さきがけ・社会党・新生党・公明党・民社党・社会民主連合は連立政権を打ちたて、昭和30年以来38年間の自民党一党支配体制は終焉を迎えた。
この間海外では1989年夏から91年冬にかけて、それまで社会主義経済下で停滞の続いていたソ連・東欧社会主義諸国が強い民主化を求める要求により崩壊する大変動が起きた。89年11月に東西冷戦の象徴であったベルリンの壁が撤去され、12月には米ソ首脳がマルタ島で会談し冷戦の終結を宣言した。1990年10月に東西ドイツが45年ぶりに統一され、1991年12月ソビエト社会主義共和国連邦も解体した。西ヨーロッパでは93年ECの市場統合が成立した。


 新たな共同配送「いたち便」への取組み

バブルの崩壊後の長引く不況は90年代半ばからデフレを引き起こし、「安くなければ売れない、安くても売れない」時代を招くことになった。機械工具業界も例外ではなく、販売店(直需店)も最終購入先であるユーザーもなるべく在庫を減らし、固定費の削減をはかるようになったことから、卸売店やメーカーへの小口注文が増えることになった。それは個々の配達量の減少や配達頻度の増加などに必然的に結びつくことになる。それだけ物流コストがかかるようになり、交通事情も重なって、効率は更に悪くなり、従来の方法では対応しきれなくなった。大手卸売商社は自前の物流・流通センターを作るなどの組織的な配送システムを構築してコスト削減に取り組んできた。その一方で、中堅卸売商数社が集まり配送業務を共同で行う企業が徐々に増加しており、現在、効率的な配送業務を目指して共同配送の稼動を開始している(立売堀界隈)。
各社の重複した納品ルートを統合して、販売店へ一括納品することで、二重納品がなくなるなど多くの利点が見出せる。
立売堀・新町の機械工具商の29社が共同配送を新たに開始、物流コストの削減や販売店のニーズに応え、荷受の煩雑さの解消に繋がるように活動を展開し始めた。現在は大阪6地区(市内、尼崎、豊中、枚方、東大阪、堺の各方面)を16台の軽トラックで朝昼各1便の集荷、配送を行っている。立売堀・新町に以前から存在していた、協同組合組織の共同配送センターと異なり、この新型共同配送においては配送コストは「小異を捨てて大同につく」という考え方に基づいているため、活用の自由度が大幅に向上したと、参加各社から好評を得ている。つまり、地区別とか個数別とか自社の事情に合った契約が可能となったからである。そして、輸送費コストや車数の削減、車の維持費の低減、販売網の拡大が以前より大幅に、かつ手軽に行うことが可能となり、走行台数の削減により環境への配慮にも繋がることになった。それだけでなく、現在は配送地区内のユーザーへの直接配送の代行というサービスも本格的な開始段階にある。まだ、このシステムは開始されたばかりであり、まだコスト削減努力はあらゆる方向から今後とも続けていかなければならないが、現在も参加企業は増加傾向にあり、今後の発展が大いに期待されている。なお、東大阪機械団地でも共同配送に取組み、好評を得ている。

 流通在庫適正化に向けて

 あらゆる方面でのコスト削減が叫ばれる現在、余分な在庫を抱え込むことは極力避ける傾向にある。したがって、商品当たりの在庫水準を極力引き下げながら、なおかつ機会損失を発生させないシステムの構築が必要になる。しかもこの傾向は販売店(直需店)にとどまらず、卸売店にまで広がっているので、結果的にはメーカー自身が在庫を抱え、さらに小口注文にまで対応しなくてはいけない。機械工具業界において取扱商品は35万種に及ぶと言われる程に膨大であるため、零細企業では在庫管理を行えないことがこれに拍車をかけているとも言える。その一方で、独自の物流倉庫を持ち、在庫調整機能を果たしている卸売商ももちろん存在している。したがって、それらの企業と対等に競争するためには、多頻度小口配送を実現する配送システムを構築することとともに、流通経路において小売・卸売・メーカーのそれぞれの段階で川上の在庫情報を川下が共有することが必要になる。つまり、小売店は卸商の、そして卸商はメーカーの在庫情報をそれぞれ把握することによって、納品までに必要な時間を割り出したり、在庫切れの場合は代替性のある別の商品を紹介することが取引の現場でできるようにならなければならない。そのためにはITを活用する以外に方法はない。
在庫管理はIT化が浸透することによって、そのシステムが様変わりしようとしている。例えば、本社のホストコンピューターと物流センターをオンラインで結び、受注から出荷配送までの全商品の流れをリアルタイムに管理できるようになった。受発注システムや在庫管理システムにとどまらず、ピッキングや検品までも含むトータルシステムということである。コンピューターと連動したバーコードで商品を管理しながら、商品の棚入れ、ピッキング、検品、店舗合わせ、パッキング、そしてラベル貼り付けなどの工程を受注リストに従って小箱単位から行えるようになる。これにより工程の大半を占める商品ピッキングや検品に要する時間の短縮を実現しつつも、ピッキングミスを減らし誤納率を極力ゼロに近づけることが可能になった。このようなシステムはまだ特定の限られた企業にしか普及していないが、ITによる業界としての流通在庫管理情報システム活用の可能性を示唆していると言えよう。

 これからの機械工具業界の課題

現在あらゆるビジネスジャンルにおいて、ITを活用した電子商取引きが拡大しつつあり、業界においても関心が高まってきている。
ただ、平成12年(2000年)の5月に開催された切削工具の製販懇談会(東京都機械工具商業協同組合主催)では、@日本独特の商習慣が定着しており、工具商のフットワーク、利便性、信頼性などユーザーの評価が極めて高い。A機械工具商の取扱商品の多さ、品質の良さが相互信頼に繋がっている。B大量消費品目の調達では影響が出るかもしれないが、これまで培ってきた対面販売の強みがある。Cメーカーと流通側とは、モラルや信頼関係の醸成が何よりも大切である、と製販双方の意見が一致した。これに見られるように、Face to Faceでの緊密なコミュニケーションを更に図りながら、一方でIT化に対応してゆく新しい時代の商売のあり方を探る努力がなされつつあるものと思う。
 
COLUMN その6 『業界取引慣行の改善に向けての調査研究』報告書

 平成12年2月に大阪機械器具卸商協同組合が発行した『業界取引慣行の改善に向けての調査研究』報告書においても、業界の将来について次のような提言がなされている。激変する流通変革環境の中で当業界は、メーカーの直接取引やDIYショップの攻勢など、今日まで築き上げてきた業界風土への風穴は空けられつつあるが、なお基本的には伝統的な取引慣行が守られ、多くの卸商及び直需店が厳しい競争を行っている。しかし、右肩上がりの経済下での第二次産業シェアダウンなど、従来市場の縮小や景気の長期低迷の中、「経営への基本姿勢」と「体質改善」、そして「情報技術の応用等」による努力の程度が経営格差を生み、業界内での生き残りをかけた激しい企業間競争が繰り広げられている。・・・直面し始めている流通革命の中にあって、機械工具業界には卸・直需の業態を超えて、健全な業態として新たな発展を遂げていくために新しい原理原則が求められる。一つは最終ユーザーに対して彼らの求めるものは何かを徹底して追求し、それを満足させることを正しいとする「ユーザー(川下)志向の原則」、もう一つは、例えば手形決済より現金決済の方が取引価格は安い、あるいは受注ロットにより取引価格が異なるなど「市場(競争)原理」の導入である。・・・ 
 さらに、それだけでなく進展するインターネットなど「情報技術革命」をどう経営体質の改善に役立て、さらに新分野として開拓していくのか、更に迫りくる強力な外資の参入に対し「商取引上の国際感覚」をどう取り入れて経営環境へ適応していくのかの、積極的な経営姿勢が求められる。
 業界は上記の方向及び取り組み姿勢をもって、本気でスピーディに変わらなければならない。この変革の中で「卸」はどうあるべきか、「直需」はどうあるべきか、さらに卸も直需も、そしてメーカーさえもそれぞれの立場で同じ土俵で競争する分野、例えば電子商取引市場など、最終ユーザーを満足させるための健全な競争市場をどう構築していくかの対応にも業界は迫られているのである。
とは言え、メーカーとの直接取引・直接納入やインターネットによる直接取引などに代表される卸売機能の排除、メーカー直仕入や返品なしの商品買い取りなどに代表される伝統的取引慣行など、機械工具業界において流通環境の激変が起こっていることは確かである。インターネットに象徴される情報の国際化の中で、商品価格情報の広域一元化が進み、大手ユーザーのほとんどが海外調達プロジェクトを設け、流通商社抜きの海外製品の直接購買を拡大していることも1つの要因である。さらに以上のような従来の販売ルートを無視した取引の増加は業界によりいっそう激しい価格競争を招くことになりつつある。しかし、現在の時点ではまだ根強く伝統的な商取引慣行が守られ、多くの卸売及び小売が厳しい競争を繰り広げながら、業績の悪化に苦しみつつもなんとか併存している状況にあると言えるだろう。
 しかしながら、流通環境の変化が、今後いっそう進行することは時代の流れとして阻止することはできない。機械工具業界は、現在まさに岐路に立たされていると言えようが、流通機構の中間に位置し付加価値も生まないのにマージンだけをとるような卸売店や直需店ならば、その存在は不要と見なされ、確実に競争から脱落していくに違いない。ビジネス環境の変化に対応して自らも変革し、流通機構の中において担うべき新しい役割を見つけ、さらにそれを実現することで存在価値を高めていく以外に、中間業者の生き残る途はないのではないだろうか。
 
  監修:大阪市立大学商学部      助教授 加藤 司
  執筆:大阪市立大学商学部加藤司ゼミナール 魚井良樹
 

佐藤 久 
 

山本篤志
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